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side刹那
七隊の拠点の外は、広い広い庭だ。斎希や十六夜は、普段は外で鍛錬を行う。
もともとこの拠点は、私が多くの世界を回っていた際に見つけていた大邸宅で、オーナーが亡くなり売りに出されていたのを格安で買い取って修繕をしたもの。そのため、建物も広ければ敷地も広い。
最初は何もないただただ広いだけの庭だったが、外で素振りをする斎希のために打ち込み用の案山子を置いたり、十六夜のために簡易的だがトレーニング器具を揃えたジムのような施設を建てた。
そして当然、手合わせをするスペースというのも十分あり、斎希と燿はそこで睨み合っていた。
正直、やめさせるのがいいのだろうが、燿の顔からして無理やり止めても意味はない。より鬱憤を溜め込みいずれ爆発するだけだ。
ならば、第三者監督のもと 好きにやらせるのが良いと思った。だから、外でやれと命じたのだ。
危険と判断すれば、十六夜とともに羽交い締めにしてでも止める。再起不能になどなられては、こちらが困るのだ。
十六夜もいざというとき止めるのは自分だと当然のように理解している。
当然真っ青な顔をした双葉と、めずらしく捺波も同席していた。
彼らが一触即発となり、私が「外でやれ」と言った時、二人とも驚愕の表情でこちらを見た。
実際双葉の声が失われていなければ彼女が一等先に止めていただろう。
睨み合う二人を前にして、双葉は遠慮がちにこちらを見つめている。
「なぜとめなかったのか、とでも言いたそうな顔ですね」
私の言葉に双葉はコクリと頷く。
「いつかは、こういうタイミングも必要だと考えていました。集団行動していれば、受け入れがたい意見も当然いつか出てきますからね。…こうしてお互いに物理的に衝突して互いの意見を主張し合うのは決して悪いことではないでしょう。それで乗り越えられる壁もあるでしょう」
「…ッ」
双葉の顔からさらに血の気が引き、胸のスケッチブックをへし折らん勢いで抱き込んでいる。
双葉の視線が改めて二人に向けられる。
ちょうどそのタイミングで、燿と斎希はぶつかり合った。
ガキィンと金属同士が接触する音が響き渡る。
思わず駆け出そうとした双葉を出で制す。
「…ッ」
「なりません。ここで止めるのは、第三者の手でどちらかの意見を殺させることとなります」
「…」
「そしてそれは貴女も同じです。『自分があんなこと言わなければ良かった』などと思ってはなりませんよ」
「…」
「貴女は誰より苦しみながらも、勇気を持ってそれと向き合うことを決め…貴女自身の答えを見つけ出してみせたのですよ。その勇気ある行動を貴女自身が否定してどうするのですか」
「!」
「あのお二人は、今議論をしているのです。些か過剰であることは認めますが…自分たちは貴女とどう向き合うべきなのか、とね」
「…」
「だからこそ、貴女は胸を張って立っていなければならないのです。そうでなければお二人の議論が水の泡ですからね」
「…」
そして当事者たちへ目をやれば、双葉もつられたように視線を動かす。意外にもその目は先ほどよりも意思を宿した目となっていた。
壮絶な打合が繰り広げられている。口が動いているので、打合しながら言い合いもしているようだ。燿の俊足を使えば背後を取って弱点を捉えるくらいはできそうだが、一向にそんな素振りはなくひたすら斬り掛かっている。
どうやらこれはいわば"殴り合いの喧嘩"であるためそんなことをするつもりはないらしい。
(しかし…燿の「アレ」は…)
燿の手の甲から生えた鎌。アレは、私も知らない。確実に「もとは存在しない」力だ。 なぜあんなことが…。
意外なことに、斎希と燿の実力は拮抗している。
斎希は真面目に打ち込み等しているだけあって動きに無駄がないが、どうしても教科書通りの動きになりがちで単調だ。
大して燿はアスリート時代に鍛え上げた運動能力とそれに裏打ちされた天性の才で以って立ち回っている。ただ完全に勘で動いているため時折隙をさらしている。天才と秀才の闘い…といったところだろうか。
まあちょうどいい機会だ。あの二人の現状をとくと見せてもらおうではないか。
結局喧嘩は数時間続き、ついに終幕を迎えた。
なかなか見ごたえのある"喧嘩"だったと、ひとり戻った部屋で笑みを溢す。
結果は、斎希の勝利。というより燿が戦意喪失したというべきか。
あの二人が斬り合いながら言い合っていたのは気付いていたが、距離を取っていたことと打合の音が大きくほとんど聞こえてはいなかった。ただ、ある一瞬から明らかに形勢が変わったのだ。
それまで防戦、もしくは受け流しをメインとして立ち回っていた斎希が目の色を変えて攻戦に立ったのだ。
それも教科書通りの美しい型ではなく、めちゃくちゃに気持ちを叩きつけるような動きで。
見たことのない斎希の鬼気迫る様相に、燿も怯んだ。そしてその一瞬の隙をついて斎希が足払いを決め、燿のバランスが崩れたかと思うと斎希が鞘を頸に押し付けて引き倒し。完全に倒れた燿に馬乗りになったかと思うとの眼前の地面に袂から一瞬で取り出した脇差を突き立て、即座に立ち上がると長物を突き付けた。
それで、勝負は決まったのだ。
「せつなさま」
すり、と寄ってきたエルフィアの喉を擽ってやると、気持ちよさそうに目を細めた。
「でも、すこしびっくりしました」
「おや、何がでしょうか」
「いつきさんです。いつもきっちり、しているのに。今日のいつきさんはすごく、すごく…こわかった」
このお付は。身体のサイズを変えられるのを良いことにしれっと見物していたらしい。
しかし、斎希と知り合って日が浅いエルフィアが見ても感じるほどに、今日の斎希は感情的だったらしい。
だが…。
「私としては良き兆しであると考えますよ」
「え、そうなのですか」
斎希は、「己を律して正しきことをする」というのが根底に必ずある。言葉を選ばなければ堅物なのだ。
だから鍛錬も打込も誰より真面目にやる。それが正しきことだから。
その彼女が、一時とはいえ感情を爆発させた。 おそらく、燿がなにかのトリガーを引いたのだろう。やはり、あの二人は共に行動させることに意味がありそうだ。 そのタイミング端末がメッセージの着信を告げる音を鳴らし、 エルフィアが確認に動いた。エルフィアには、おおよその端末操作を仕込んでいる。短い前足では不便そうだが、よく動いてくれるのだ。
カチカチ、とメッセージを見たエルフィアが動きを止める。そうして、恐る恐るといったふうにこちらを振り返った。
「せつなさま。…おたよりが、きています」
「!」
エルフィアが画面に開いた画面をみて、私とエルフィアは思わず顔を見合わせたのだった。
