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side十六夜
「十六夜ちゃん、起きて。朝だよ」
「んんんんん...」
「ちょ、布団にもぐったらダメだって!朝なんだってば!」
「...」
「朝ごはん出来てるから!」
シャッとカーテンが開かれ、窓から差し込む朝日に思わず布団を引っ被る。
まぶしい...閉めてくれえ...。
そんなミノムシな私からミノを引きはがそうとするのは双葉。
がっちりホールドされた布団を一生懸命引っ張ってるのかわいい。
でも眠いから離さない。
「起きてよ十六夜ちゃん!みんな起きてきてるんだから!」
「...どうせ燿は寝てるでしょ...」
「燿ちゃんは斎希ちゃんが起こしに行ったよ。燿ちゃんを起こせるの斎希ちゃんだけだから...」
溺愛されている双葉ですら起こせない燿を起こせる斎希マジリスペクト。
「じゃああたしは寝る...」
「あああこら!ダメ!起きるの!」
私たちの朝はいつもこんな感じの子供の言い合い。
でも仕方ないよね、眠いんだもん。
「むー...全然起きないよ...」
そう、あたしは起きません。
「ご飯いらないの?」
そう、別にいいです。
「...治癒、放っておけ。そんな見掛け倒しのリーダー、相手にするだけ時間の無駄だ」
そうそう...って。
「誰が見掛け倒しだゴラアァァァァァア!」
ムカつく声に跳ね起きる。
真っ先に目に入ったエグい長さの銀髪。
そこから見えるこちらをバカにしたような、というかバカにしすぎてもはや哀れんでる目をにらみ返す。
こいつは神流、私たちのエース。
実際めちゃくちゃ頭良いし、仕事もめちゃくちゃ手際がいい。
一緒に仕事行くとすごく頼りになる。
...この腹立つ性格以外は、ね。
こいつはいつもいつも、初めて会った時からあたしをバカにしてくる。
一言物申そうと思った時。
「あ、やっと起きた!」
嬉しそうな双葉の声にしまった、と思う暇もなく腕を掴まれずりずりと引きずり出された。
しまった、神流につられて...!
こうなってしまってはもうどうすることもできないので、大人しく服を着替えて食卓に向かうしかない。
「今日は斎希ちゃんがご飯作ってくれたんだよ」
「へえ。じゃあ今日は和風ってことか」
「うん!」
食卓には、すでに私以外のメンバーが集まっていた。
あたしが一番最後かい、ぐずってたのは自分だがなんか悔しいぞ。
双葉はやっとあたしの腕を離し、配膳の手伝いに行ってしまった。
「おー、来たな十六夜。今日は私のが早かったみたいだな!」
「...おはよう、十六夜」
「捺波、動いて平気なのか?」
「...うん、双葉のお蔭で...いつもより」
腕を組んでドヤ顔する燿をにらみつけ、席に着く。
捺波は今日は具合いいみたいだ。
「早かったみたいだな、じゃないでしょう。貴方だってぐずぐずしてたんだから」
「んぐ」
焼き魚と味噌汁を机に並べていた斎希にたしなめられ、燿は口ごもる。
斎希はいつも燿の暴走を止めていて、この二人はなんだか親子みたいだ。
それでも、いざという時の息はぴったり。
ひょっとしたら親子っていうより夫婦なのかもしれない。
「早起きは三文の徳というのだから、大人しく早起きしなさい」
「はーい...」
「ふははは、言われてやんの」
「十六夜ちゃんも人のこと言えないよもう」
「ぐ」
今度はこっちが黙る番だったみたいだ。
「...くだらん張り合いをする前にさっさと起きればいいだろう」
神流がこれ以上ないほど馬鹿にした目で私たち(あたしと燿な!)を見る。
「うっさいわ。それは起きれる奴が言うセリフだ」
燿の言葉に激しく同意だ。
起きれる奴に起きれない人間の気持ちなんてわかんないのだ。
「...起きれないのではなく起きようとしないだけだろう」
「うっさいわ!」
「い、十六夜ちゃん!神流ちゃん!喧嘩しないでー!」
「そんなことより、お味噌汁冷める前に飲んで」
「...頂きます」
神流とにらみ合いながらも斎希に言われた通り味噌汁をすする。
うん、美味い。さすが斎希。
「斎希ちゃん!お味噌汁美味しい!」
「本当?それなら良かったわ」
「斎希は和食作らせたら右に出る者いないな!」
「...うん、本当に」
「でも双葉は洋食めっちゃ美味いもんなー!」
「わっ」
燿が双葉の肩に手を回して引き寄せた。
眠くて低血圧気味だったあたしと燿も、ご飯を食べて頭に血が回ってきたのかいつものテンションが戻ってきた。
といってもこれが毎日のルーチンなんだけどね。
だって朝眠いんだもん。