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朝食後斎希が淹れてくれたほうじ茶を飲みながらぐだぐだと雑談。
「ねえ、十六夜ちゃんはここに来る前は何してたの?」
双葉がそう切り出した。
あたしたちは今こうして一緒に暮らしているものの、その前はお互いに顔も知らない他人。
だからその頃のことは基本知らない。
これからずっと一緒にいるのならそりゃ知りたくもなるだろう。
「んー?特に何も。普通の学生」
「へえ...燿ちゃんは?」
「私はアスリート。陸上の」
「そうなの?貴女の俊足はその時からなのね」
燿は七隊随一の俊敏性を誇るけど、それは前からそうだったのか。
そのころからやっぱ...あったのかなあ。
そういう属性的なものが。
「じゃあ斎希は?」
「私は茶道の家元の娘」
「いえもとぉ!?」
あたしの問いにさらりと返された爆弾に燿が素っ頓狂な声をあげた。
そりゃそうだ、家元って...。
「斎希、あんたそんなお嬢だったの...?」
「それほどでもないわ。家元と言っても本家大元の家系じゃない、ただの末端の家だから」
んなこと言われたって家元は家元。
一般庶民的には縁遠い存在に変わりはない。
「斎希ちゃん一つ一つの所作がすごく綺麗だもんね。礼儀正しいし」
双葉が感激したように呟いた。
確かに斎希は礼儀正しいし所作も綺麗だ。
それはあれか、そういうあれで鬼のように鍛えられたかなのかな。
「そういう双葉はどうなんよ。ここに来る前は何してたわけ?」
「わたし?わたしは...うーん...」
燿のかるーい質問に、双葉は腕を組んで考え込む。
え、考えないとわからないタイプのフクザツな事情がおありですか。
「え、なに。なんか聞いたらヤバい感じのあれ?」
慌てた様子の燿にこれまた慌てて双葉が答える。
「う、ううん!全然!そんなことは全然ないよ!ないんだけど...」
「けど...何か不安なことでもあるのかしら?」
「不安なことっていうか...」
困り顔のまま顔を上げて、首をかしげる双葉。
「はっきりしないんだよね、なんだか。身体が弱めだったから外にあまり出なかったってこととかは覚えてるんだけど」
「はっきりしない?そんなことあんのか?」
「うーーーーーん...」
困ったように手を頬にあててまた考え込んでしまう。
ううん、これはワケありみたいだ。
でも別に今無理して思い出す必要はない。
他二人も同じ考えのようだった。
「いいわ、双葉。無理して思い出すことはないもの。ね?」
「そーそー。前になにしてようと今は私のかわいい双葉であることに変わりないしねー!」
斎希が肩に手を置き、燿が反対側から抱き着いている。
愛されてるねー全く。
「私は双葉をどこにもやらないって決めてるもんねー。仕事だって女性限定にしろって刹那に言おうかと思ってるし」
それはやりすぎだな。
「よ、燿ちゃん。ダメだよそんなワガママ言っちゃ」
「ワガママ?何言ってんの。双葉に変な虫が寄って来たら大変じゃん!」
それはまあ、一理ないこともないけど。
「大丈夫だよ、自分の身は自分で守れるから」
「全く、燿の父親根性にはある意味脱帽ね」
そんな双葉たちを微笑ましく思いつつ、ちらっと残りのメンツを見やった。
さっきから気配を消してる二人、神流と捺波。
この二人はとにかく自分のことを話したがらない。
特に神流はここに来る前、とか昔は、とかって言葉すらNGなんじゃないかって思うくらいだ。
無理に話さないといけないことでもないから聞かないけど。
捺波も...あんな怪我していたから最初は何があったのかって聞いたけど、しばらく考えた後に「...水...汚されたから」って。
それだけであんな怪我できるのかと思ったけど...やっぱりその辺りはプライベートなことだし、深くは踏み込めない。
そういえば、あたしたちが集まって少し経つけど、捺波の傷は一向に回復する様子がない。
双葉が毎朝治癒の力を使ってるって聞いてるのに...。
考えたら心配になってきた。
「捺波」
「...?なに、十六夜」
「あんたの怪我...治ってるの?」
あたしの問いに、捺波は一瞬目を伏せてから軽くうなずいた。
「...前、よりは」
「あんた、いつもそれだ」
いつ聞いても、こいつの返事は「前よりは」。
どう見たって治ってるなんて言い難いのに。
「双葉の治癒でも...効かないの?」
ちょっと切り込んでみる。
捺波は少し困り顔をして神流を見た。
神流はその視線を受けても何をするでもなく座っている。
「...双葉の、治癒。...楽になれるから、十分」
「楽に?」
「...うん。痛みとか、少し...引くから」
それって...気休めってことじゃ。
さらに聞こうとしたとき、神流が口を開いた。
「隊長。...それくらいにしておけ」
「神流...!」
「...治癒の力で楽になる。それで十分だ」
プライベートをむやみやたらと探るな。
そう言われた気がした。

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