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side十六夜
「ねえ、十六夜ちゃん」
ある日の昼過ぎ、メニューを終えて休憩していた私のもとに双葉がやってきた。
何やら周りをきょろきょろしている。
なんかやましいことでもあんのかな。
「どうしたよ、そんなきょろきょろして。なんかやましいことでもあるの?」
ちょっとふざけて言ってみると、双葉は頬を膨らませて反論する。
「な、ないよ!ただ...ちょっと...」
なんだよ。
やっぱりやましいんじゃないか。
「だからやましくなんかないってば!」
「心読まないでよ...」
どうにも私は思ってることが顔に出やすいらしい。
神流のやつなんか、私の思ってること全部言い当てていきやがる。
プライバシーの侵害だー!
「で?どうしたの」
双葉はまだ膨れていたが、また辺りを見回してから声を潜めた。
「あのさ...幽霊...って、信じる?」
「.........は?」
脈絡がなさ過ぎて目をしばたたかせた。
幽霊?
なんで急に。
「え、なんで?幽霊?」
双葉の顔を見ればふざけてなどいないことはわかる。
ただ、いったい何を食ってそんなこと言いだしたのか。
「あのね...刹那ちゃんの部屋からね、声がするの」
「声ぇ~?」
意外と身近なところの話だったわ。
「声ってどんなんよ。う~ら~め~し~や~っていうやつ?」
「ううん...何を言ってるかはわからないんだ」
ふーん、なるほどねえ。
「それでね、たまに刹那ちゃんの声もするの」
いやそれは当たり前だろ。
刹那の部屋なんだから。
「それは別に不思議なことじゃないじゃん」
「そうなんだけど...そういうことじゃないの!その声とたまに話してるんだよ!」
「その声と?刹那が?」
双葉が何度もうなずく。
だとすると。
「単純に刹那が誰かと話してるんじゃないの?メンバーの誰かと」
「七隊の皆の声だったらわかるよ!」
ごもっとも。
「じゃあ...なんだ?刹那の部屋に誰も知らない八人目の七隊がいるってことか?」
「えええ...」
八人目の七隊。
...ん?だとしたらそれはもう七隊じゃなくて八隊か。
いやでも私たちは七隊であってそこに一人加わるだけなんだからやっぱり八人目の七隊か。
「でも、そうだとしたらなんで刹那ちゃんはそのことを隠してるんだろう...」
双葉の疑問はもっともだ。
八人目が来たなら隠さずに私たちに紹介すればいいんだから。
それを隠してるのは、なんだか正義に反してる気がする。
「じゃあ刹那本人に聞いてみる?」
「それも、それとなく聞いたんだけど...」
聞いたんかい。
行動力あるな。
「『ああ、きっと依頼人との通話をしているところを聞かれたのでしょう』って」
「じゃあそうなんじゃないの」
「違うと思うんだ。あれは機械を通した声じゃないよ」
頑として譲らない双葉。
そこまで双葉が言うなら、きっとそうなんだろう。
「なるほどねぇ~。ちなみにどんな声なの?」
「えーと...可愛い男の子の声」
.........。
「え˝」
なんだ、八人目の七隊はショタなのか?
しかもそれを刹那が隠してる可能性があるって?
...刹那やばいやつ疑惑が浮上するぞそれ。
「それが最近気になってて...」
確かに気になる。
同意しようと口を開いたとき。
「ちょっと待ったぁ!聞き捨てならないぞそれ!」
突然の怒号に私も双葉も飛び上がった。
なんだどうした何事だ。
「双葉に気になるやつがいるってぇ!?聞いてないぞコラぁ!」
声の主は燿。
なんだよ脅かしやがって。
「なんだ燿か...脅かすなよ」
「んなことどーでもいいんだよ!」
どーでもいいとはなんだどーでもいいとは。
話聞けコラ。
しかし燿は私には目もくれず双葉の肩をぐわしっと掴む。
「どこの誰だ!そんな不届き者は!」
「へ?」
双葉は肩を掴まれて目をぱちくりしている。
あー、多分わかってないんだな...お互いに。
「どこの誰か言いなさい双葉!この私直々に成敗して二度と双葉の前に出れないようにしてくれる!」
「へ?ちょ、燿ちゃん落ち着いて!なんのこと?」
燿の腕をぺちぺちしながら双葉が懸命になだめようとしている。
「とぼけんな!私はしっかり聞いたぞ!最近気になるやつがいるんだろ!?」
「...まあ、やつというか...わからないけど」
「なっ...!」
あ。
ピキッとなにかが燿のなかで割れたのが見えた。
やばいぞこれは。
地雷踏み抜いたぞ。
「ふ、ふふふ...良い度胸だ...双葉を籠絡するとどうなるか...私がこの手で教えてやる...」
禍禍しいオーラを放ち般若のような顔をしながら燿が転送部屋に歩き出す。
「ちょ、ちょっと待って燿ちゃん!どこ行くの?」
双葉の声に、まるでギ、ギギ...と音がしそうな様子で燿が振り向く。
「ちょっと制裁を下してくるだけ...すぐ帰ってくるから」
「え、制裁って...誰に?」
「決まってんだろ!双葉を丸め込もうとしやがった野郎だよ!」
途端に双葉の目が丸くなる。
「なんのこと?わたしがマルメコマレテるって...」
その言葉に燿の目も丸くなる。
「は?だってさっき気になるやつがいるって...」
「うん」
「だからそいつを...」
「え、なんでそれがわたしを籠絡しようとしてるって話になるの?」
「はぁ?」
ダメだこりゃ。
もうこれは私が入るしかなさそうだ。
そう悟った私は燿と双葉の間に入った。
「はい、ストップ。燿、双葉が言ってるのは男のことじゃないよ。最近気になる"ことが"あるってことだよ」
燿の後ろの禍禍しいオーラが消える。
「こと?」
「こと」
「なーんだ。人騒がせな」
ようやく燿のテンションが戻った。
人騒がせなのはそっちだ全く。
また変な勘違いが起きる前に、もうさっさと話してしまおう。
そう思って先ほどの双葉の話をかいつまんで説明した。
「あー、確かにたまに刹那の部屋からなんかぶつくさ聞こえてくるときはあるけど」
燿も気づいていたのか。
私全く気付かなかったんだけど。
「私ずいぶんでかい独り言だなーって思ってたわ」
独り言ってなあ...。
さすがの双葉も呆れたような顔をした。
「あんなしっかりしゃべってて独り言はないでしょ...」
「てか刹那がそんな考えてることペラペラしゃべるようなやつなら今頃私らもっと刹那について知れてるよ」
「ごもっとも」
ほんと刹那ってわからない。
だって何も言わないし。
「ま、とにかく男の事じゃないならいいわ」
「もう...」
なんだよ、双葉の事じゃないとわかった瞬間興味なくしよって。
「そんな気になんなら突撃すればいいじゃん」
「そんなのダメだよ!人の部屋に無断で入るなんて!」
女の子だなあ...。
「じゃあどうすんだよ。刹那に聞いても答えてもらえてないんだろ」
「うーん...」
また三人で考え込む。
いや燿は考えてないか。
「...十六夜...?」
「...何をしている」
そこに捺波と神流もやってきた。
やばい、そろそろフルメンバー揃うぞ。
「捺波?動いていいの?」
相変わらず痛々しい包帯をチラ見して尋ねる。
ひどいときは本当に歩けないから。
「...うん。...今日は、すごく...楽」
ならいいけど...。
「...それで、お前たちはそんな気の抜けた顔をしてなにをしている」
「抜けとらんわ!考え事じゃアホ!」
本当に神流は一言一句がバラの茎のごとくトゲがあって困る。
「神流ちゃんに捺波ちゃん、最近刹那ちゃんの部屋から声がするんだ。しかもその声と刹那ちゃん、話してるの。気付いてた?」
双葉の問いに捺波は首を振る。
良かった仲間がいた。
「...声...?...どんな...?」
「可愛い男の子の声なの」
「...男の子?」
捺波と神流の顔がなんとも言えない表情となった。
わかる、わかるよ。
そうなるよね。
「...どうして紹介してくれないのかな」
「よっぽど言えない事情があるんだろーな」
よっぽど言えない事情がある、可愛い声の男の子...。
「隠し子とか」
なーんて。
ふざけたつもりで言ったんだけど。
その場にいる全員がこっちを見た。
え、なに、ごめん。
「ワンチャンあるぞそれ」
「確かに!」
「...刹那に...?」
なんか、賛同されている。
「...バカな」
そんなとき、一人だけ一刀両断しやがる神流。
「なんだよ。あり得ないことじゃないじゃん」
むっとして言い返す私をこれ以上ないほどバカにした目で見てくる神流。
「...子が親に様付けなんてしないだろう」
...え?
「さま...づけ?」
マジで?
「...お前たちのいう"声"とやらは刹那を様付けで呼んでいる。...知らなかったのか?」
知りませんでした。
「てか、あんただって知らないって...!」
「...いつそんなことを言った?」
いつって...。
ついさっき双葉が声について気付いていたか聞いて...そのあと捺波が首振って...そのあとは...可愛い男の子の声だってことになって...隠し子説...。
「あっ」
こいつ、一度も知らないって言ってない!
知ってるとも言ってないけど!
「...ふん」
「ぐぬぬぬ...」
ほんっとこいつ、腹立つ!
「じゃあ...なんだ。刹那のやつはそんな声の可愛い男の子を様付けさせてさらに私らに隠してるってのかよ」
燿がこれまでの話をまとめる。
「それ、めちゃくちゃやばくない?」
「うん。その子のこともそうだし、刹那ちゃんのほうも...」
「...自分で言っといてあれだけど、寒気がしたわ」
だってそうじゃん。
そんな年端もいかなかろう男の子に様付けさせて部屋のなかに閉じ込めてるってことでしょ?
え、やばい。
どうしよう。
「どどど、どうしよう十六夜ちゃん!どうしたら...!」
「わ、わかんないよ...!」
助けを求めて神流を見ると、興味なさそうにあくびをしている。
捺波はといえば不思議そうな顔して見つめ返してくる。
あ、ダメだわかってない。
「あら?みんな揃ってどうかしたのかしら?」
みんな(?)で戦慄しているところに斎希までやってきた。
そしてついにフルメンバーに。
「いいいい斎希ちゃん!実は斯々然々で...!」
「ええ...?」
きたばかりで突然そんなヘヴィな話を聞かされた斎希。
かわいそうに。
「どどどどうしよう斎希ちゃん...!」
「刹那が...男の子を...」
「おーい、斎希ー?」
「様付け...監禁...」
外界をシャットアウトしてしまった斎希。
双葉や燿の呼びかけにも答えない。
...かわいそうに。
「...かんなぁ~」
藁にもすがる思いで神流にヘルプを求める。
「...知るか。私たちには関係ないだろう」
人でなしだ。
「...余計なことに首を突っ込むくらいなら人でなしで結構だ」
鬼め!悪魔め!
所詮藁は藁だ。
すがったところで藁なのだ。
「...神流。...なにか、問題...?」
わかっていないらしい捺波が神流に耳打ちしているのが聞こえる。
ああ、きっとそういう文化がないんだなあ。
出身的にも、性格的にも。
「十六夜ちゃん!」
「うひゃはッ!」
突然呼ばれて飛び上がる。
「な、なんとかしなきゃ!」
「へ?」
「刹那ちゃんもその男の子も!な、なんとかして助け¢£%#&□△◆■!」
「もちつけもちつけ。呂律回ってないから」
おーおー、双葉の頭から湯気が見える。
こいつそういうのダメだからな~。
「でも現状私らができることなくね?」
燿が頭の後ろで手を組ながら言う。
激しく同感だ。
まさか扉をぶち破るわけにいかんし。
「あうう...」
シューシューと湯気を立ち上らせ(てるように見え)ながら、双葉が頭を抱えた。
でも、実際私たちにできることなんて...。
「この案件、一旦保留にしない?」
考えていることは同じだったようで、双葉以外のメンバーは私の提案にうなずいた。
「...そうね。少し、きちんと時間をとりましょう...」
あ、斎希戻ってきた。
「ま、私は双葉がどうこうされたわけじゃないなら正直どうでもいいしな」
お前も人に劣らず鬼、悪魔だな燿よ。
「...ふぁ...ぁ」
神流お前はせめてなんか言え!
「...よく、わからない...けど。...なにかあったら...また...。...手伝えることがあれば...だけど」
燿と神流のあとだと癒しだな。
「っし。じゃあそういうことで。解散!」
私の号令でみんなが思い思いに散っていく。
まだ湯気が出ている双葉をなだめる斎希と後ろから抱きついている燿。
さっさと姿を消した神流。
捺波はといえば、救急セットを抱えて戻っていった。
さて、私もそろそろ戻るか。 

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