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side捺波
刹那のことはいったん保留にしようということで結論がまとまり、ワタシは双葉たちを残して部屋に戻ってきた。
持ってきた救急箱の中から包帯を取り出す。
もともと、替えの包帯を取りにいったのだ。
「......」
そっと左腕に巻いていた包帯を取る。
包帯の下から痛々しい傷だらけの身体が覗く。
...治らない。
...わかっているけれど。
普段包帯の取り換えなど世話をしてくれているのは双葉。
定期的に双葉の力で治癒してもらっているが...やはり。
「...いた...」
傷に痛みが走り、一瞬顔をしかめる。
しかしこんなのはまだまだいい方。
本当に辛いときは...立てなくなるから。
「......」
そっと新しい包帯を巻きなおす。
自分でやるとなかなかうまくいかないものだ。
双葉の器用さがうかがい知れる。
「...う...」
何度やってもずれてしまう。
双葉はいつも一回で簡単に巻いているのに。
...自分でもできるようにならないと。
いつも双葉に任せきりにするわけにはいかない。
あれこれ直して、何とか左腕を巻き終わる。
歪だけど...仕方ない。
「...右...」
次は右腕。
...正直左腕よりも自信がない。
利き手は右だから。
右を巻くには、左手を使うしかない。
巻いていた包帯をそっと外して、本作業。
そもそも利き手でないうえに、怪我と巻かれた包帯で思い通りに動かせない手での作業は予想以上にひどいものだった。
無理に動かすと、今でも簡単に傷は開く。
それを気遣い、同時に綺麗に包帯を巻くのは至難の業だった。
「...」
もう、双葉に頼んでしまおうか。
「...いや、ダメ」
やっぱりだめだ。
自分でやらなきゃ。
悪戦苦闘した末に巻き終わった包帯は、なんとも言えない形になっていた。
ずれないようにと苦心した結果、巻きすぎて動かしづらい。
「...うん」
でも、巻けたのだからこれでいい。
包帯を救急箱に戻す。
「...」
戻しに行こう。
箱を抱えて部屋を出る。
「あ」
「...あ」
出たところで双葉と遭遇。
てっきりまだ頭から湯気立ててるかと思っていた。
なんて...タイミング。
「捺波ちゃん!あれ...包帯巻き直したの?」
「...」
「言ってくれればやるのに。ほらほら!座って座って」
救急箱を抱えているワタシを、双葉が部屋に押し戻す。
「...もう...巻けてるから...平気」
「じゃあ確認だけでもさせて」
こう見えて強情な双葉。
ワタシは大人しく部屋に戻り、ベッドに座る。
「ちょっと見るね。痛かったらすぐ言って」
「...うん」
双葉がそっと私の腕を取る。
「っ」
「ごめん!痛かった?」
「...ううん、平気」
ワタシを気遣いながらそっと包帯を確認していく双葉。
「うん、左腕は大丈夫。じゃあ反対の腕見せて」
右腕...自信ないな。
「...ん」
右腕を一目見た双葉は、ふふっと笑う。
...やっぱり。
「...」(しょぼん)
「ああ!違う!違うの!形が変とかってわけじゃなくて!」
懸命に擁護しながら、腕は既に巻かれた包帯を解きはじめている。
...やっぱり。
「...」(どよーん)
「あああ違うんだってば!そんな悲しそうな顔しないで!」
双葉は少しほどいた包帯を綺麗に直していく。
さっきの悪戦苦闘はなんだったのかと思うほど整った右腕の包帯にため息をついた。
「うん、これで大丈夫」
「...ありがとう」
また包帯を箱にしまった双葉が、ふとワタシを見る。
その目は明らかに悲しそうだ。
「...なに?」
「...なんで、こんなに治らないのかなって」
「!」
ワタシの怪我は、双葉が定期的に治癒してくれても全く治る気配を見せない。
それは、わかっていること。
この傷は...癒えない。
でも、それは...双葉には、とても言えない。
「...傷が、深いから」
「でも...」
「...双葉の、おかげで...とても、楽。ありがとう」
そう言って笑いかければ、双葉はなにも言わない。
それは、ここ最近分かったこと。
「...うん。じゃあ、また。何かあったらすぐ呼んでね」
納得していない顔で、救急箱を抱えて部屋を出てく双葉を見送る。
腕を見れば、綺麗に巻き直された包帯。
罪悪感が募っていく。
治らないとわかっていながら、彼女の手を煩わせている。
―耐えてはいたけど、こんなもんか―
あのときの屈辱は、忘れない。
忘れられない。
いつか...仲間たちに全部打ち明けられる日は、因縁を断ち切れる日は来るのだろうか。
そんなことを思いながらベッドに横になった。 

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