3
「皆さん」
そのとき、居間の奥の扉が開いて中からすらりとした金髪の女性が顔を出した。
「あ、刹那ちゃん。ご飯できてるよ」
刹那、あたしたち6人を集めた張本人であり司令塔。
「ありがとうございます、後で頂きますね」
「今日は仕事はあんのかー?」
刹那は燿ににこっと笑い返し、ふっと視線を下にやった。
するとその目線の先に空中にパッと画面が現れた。
SFとかでよくあるあれだ。
その画面でなにやらしたあと、刹那が顔をあげると画面は消えた。
「斎希、それに燿。お願いしたい仕事の情報はあなたたちのコンピューターに送っておきました。後で各自確認をしてください」
実はさっき刹那が使っていたやつはあたしたちにも配給されている。
最初は使い方がわからなくてあたふたしたけど、ようやく最近コツをつかんできた。
「これ、どれくらいかかりそうかわかるかしら?」
「そうですね...最低でも数日程度でしょうか」
ここで、今更だけどあたしたちのことを少し話しておこう。
あたしたちは刹那によって集められた...なんだろう、超能力者...というか異能力者...、まあ、そんな感じ。
集められる前は、住む場所どころか住んでいた"世界"すら違うかもしれない。
あたしは火を自在に使える。
双葉は傷を癒す治癒の力の使い手。
燿は雷を操れて、そして異常なほどの機動力を持つ。
斎希は絶対的な力の防御壁、つまりバリアを張れる。
神流は...闇の力だって聞いたけど詳しくは知らない。
捺波は水の使い手だけど、例の怪我のせいで全然力が出せないらしい。
でもまあ、今のところあんまり必要ない力なんだけどね。
ただ刹那は何が起きるかわからないから油断せずに鍛錬した方がいいって言ってるし、あたしとしても運動とか体を動かすのは好きだから練習はしている。
実際、あたしたちはまだ自分の力を全然使いこなせてないし。
なんであたしたちを集めたのかは、刹那によると「世界の均衡を保つため」。
あまり目立つわけにはいかないけど、でも存在していないといけないそうだ。
正直子供向けのヒーロー番組みたいな話だが、だからこそ燃えた。
前から人の役に立つことや、正義の味方は大好きだったし、そうなりたいと心の中では思っていたから。
それで、具体的に何をするかと言えば刹那が斡旋してくる仕事をこなすことだ。
それは様々な"世界"に実際に行くということ。
一体どういう仕組みなのかさっぱりわかんないが、刹那の作業部屋にある機械―あたしたちは"転送装置"って呼んでいる―に刹那がエネルギーをチャージして、それで目的地(世界?)に飛ぶことで仕事に向かう。
仕事内容は様々、恋愛相談から護衛までなんでも。
まあ、色々ワケわからないかもしれないけど、"世界"を相手にした派遣型何でも屋くらいに考えてればいいよ。
「そう、わかったわ。準備をしたらすぐに」
斎希はそういうと、台所に戻った。
「んー。私は別に準備する必要もないしいつでも」
燿はついっと片眉を上げ、少し面倒そうな声色だ。
二人の返事に、刹那はまたにこっと笑う。
「お願いしますね、二人とも」
そしてあたしたちのほうにやってくると、双葉が配膳した朝食を軽く手を合わせてから食べ始めた。
こいつは私たちの中で群を抜いて謎だ。
刹那についてわかってることなんて...世界を飛ぶ力がある金髪の女性ってことだけ。
これまでのことはおろか、家族も年齢もあたしたちは知らない。
「十六夜。どうしたのです?」
刹那の声で我に返ると、刹那がこちらを見ている。
しまった、無意識のうちに凝視していたか。
「ごめん、何でもないんだ」
「それなら良いのですが」
刹那は朝食をきれいに食べ終わると、また手を合わせて席を立った。
「ご馳走様です、斎希。とても美味しかった」
「それは良かったわ」
斎希がすでに食べ終わっていた私たちの皿を洗いながらそう返事をする。
すさまじい勢いと効率で全て済ますと、ハンカチで手を拭きながら戻ってきた。
それを見て燿も立ち上がる。
「んじゃ、ちょっくら行ってくるかね」
「双葉、家のことはお願いね」
そうして刹那と共に転送部屋へ入っていった。
二人の後ろ姿を見送った後、双葉はテーブルの上を拭き始め、捺波は自分の部屋へと戻っていった。
神流はいつの間にかいなくなっている。
さて、いつもの運動メニューやろうかな。