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side双葉
エルフィアちゃん事件からだいたい二週間後くらいの朝食の席。
今日の献立はトーストとベーコンとスクランブルエッグ。
ちょっと無難すぎたかな...。
得意な料理が洋食に偏ってるせいで、朝も洋風になりがちなんだよね...斎希ちゃんのお味噌汁みたいな素敵な朝ご飯、練習しなきゃ。
「はい!これが捺波ちゃんので、全員分かな?」
「うん...ありがと、双葉」
食卓には、わたしとお手伝いをしてくれた斎希ちゃん、髪の毛が寝ぐせでつんつんしてる十六夜ちゃんに低血圧でくらくらしてる燿ちゃん、今日も調子がいいっていって出てきてくれた捺波ちゃん。
「おはようございます。今日は双葉が作ってくれたのですね」
そして、身支度とかばっちり決まった刹那ちゃん。
...ひとり、いないのに気付いた?
「神流のやつはまだ戻ってないのか」
燿ちゃんがあくびをかみ殺したような声で言った。
神流ちゃんは、エルフィアちゃんと会った次の日くらいにお仕事に行ったっきり、まだ戻ってこない。
...大丈夫、かな。
「刹那ちゃん、神流ちゃん大丈夫なの?」
もう何度もしたこの質問。
刹那ちゃんは、ちらっとこっちを見て、薄く笑ってこう言うんだ。
「...難しい任務をお願いしたのです。...きっと大丈夫ですよ」
刹那ちゃんはこういうけど、わたしはやっぱり心配。
わたしに大丈夫だ、っていう刹那ちゃん...目が笑ってないから。
「お手伝いとか、できないの?」
怪我とかしてたら、治してあげたい。
「...神流が嫌がるでしょうね。"余計な世話だ"と」
「...」
確かに神流ちゃんはそういう性格してるけど...。
なんか、すごく心配。
どんなお仕事かもわからないのに、いやわからないからこそかな。
神流ちゃんが...危ない目に遭ってるんじゃないかって。
ひょっとしたら、どこかでなにかに巻き込まれてるんじゃないかって。
「双葉」
そんなわたしを気遣ってか、斎希ちゃんがそっと肩に手を置いてきた。
「大丈夫。神流の実力は知っているでしょう。きっと自分で切り抜けるわ」
「...うん」
斎希ちゃんの目に諭されるように、小さく頷くしかなかった。
結局、わたしには何もできないんだ。
「さ、せっかく双葉が作ってくれたご飯が冷めてしまうわ。頂きましょう」
斎希ちゃんに促されるまま、さくっとトーストをかじる。
少し冷めてしまったせいか、心なしか固かった。
朝ごはんを食べ終わって、わたしと斎希ちゃんが片付けをしていたとき、テーブルに残っていた燿ちゃんが突然叫び出した。
「んなーーーー!もう!」
「きゃっ」
思わず飛び上がってしまった。
だって急に大きな声出されたら驚くよ!
恐る恐る斎希ちゃんと覗く。
見ればわしゃわしゃと頭をかきむしる燿ちゃんと、それを遠巻きに眺めている十六夜ちゃんが見えた。
そして、なんの騒ぎだと言わんばかりに刹那ちゃんまで部屋から顔を覗かせている。
「仕方ない...嫌だけど...こうなったら...」
な、なにか呟いてる...。
どうしちゃったんだろうと斎希ちゃんと顔を見合わせた。
燿ちゃんは、ガタンと立ち上がった。
「お前ら!集合!」
集合って...いったいどうしたのかな。
斎希ちゃんとまた顔を見合わせるけど、集合と言われてしまったので恐る恐る近寄っていく。
...すごく露骨に身構えてるけど十六夜ちゃんもちゃんと集合してる。
刹那ちゃんはスタスタ普通に来た。
さすがだなぁ。
「最近ミョーに空気が重い」
燿ちゃんが一言言い放つ。
それには自覚があった。
わたしが...朝あんなことを言っちゃったから...。
「双葉は悪くないが他のやつら!顔が暗いんだよ!言いたいことがあるなら双葉みたいに口に出せ!なにも言わずに暗ぁい雰囲気を纏うな!」
誰も言い返さなかった。
悪いのはわたしだと思うけど、一週間前くらいから少し雰囲気が暗めだったのはみんな感じていたと思う。
「神流のヤツを心配するのはいいが、そのせいで雰囲気まで暗くなるのはゴメンだよ。...そこで」
そこで?
みんなの心がひとつになった。
てっきり、燿ちゃんのお説教だと思ってたから...まさかなにか提案してくるなんて。
「ヒッジョーに不本意極まりないけど...私らの蓄えから少し出すことにした」
「燿。それは...どういうことかしら」
燿ちゃんは、また頭をがしがしとかくと小さな小さな声で何か言った。
「...、...」
「え?なに?聞こえないって燿。もっとはっきりしゃべってよ」
十六夜ちゃんのツッコミに誰もが頷く。
燿ちゃんは、ちっと舌打ちをすると。
「だから!どっから好きなとこ行って好きなことしてこいっつってんだよッ!」
やけっぱちみたいに叫んだ。
誰もがまたなにも言わない。
ううん、言う言葉が見つからないんだ。
だって、燿ちゃんが。あの無駄づかいをなにより嫌って1円単位でお金の管理をしてる燿ちゃんが。
「「「ええええぇーっ!」」」