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side双葉

ゆめを、みた。
わたしがまだ小さかったころの、ゆめ。

誰だかわからないけど、男の人と一緒にテーブルについていた。その人はすごく優しくて、わたしの頭をなでてくれた。わたしはそれがすごく嬉しくて、幸せだった。
目の前のテーブルには、たくさんの美味しそうな料理が並んでいて、真ん中にはろうそくの立ったケーキが置いてあった。
『誕生日おめでとう、―――。』
その言葉に、わたしは身を乗り出してケーキのろうそくに息を吹きかけた。ろうそくの灯が揺れる。
二本消せた、もう一回。
三本目が消えて、もう一回。
一気に三本消せて、もう一回。
あと二本、一気に消しちゃおうと思い切り息を吸い込んで、思い切り息を吹きかけた。

二本のろうそくの灯が、激しく揺れてふっと消えた。

次の瞬間、目の前にさっきの男の人が倒れていた。顔にぬるぬるした何かがかかっていて、気持ち悪い。
ごしごし目をこすると、その手が真っ赤になっていた。
なにこれ?
こすった手には、気が付いたらナイフを持っていた。ナイフも真っ赤で、雫がぽたぽた落ちていた。

わたしはそれをもって、目の前に倒れている男の人に近づいた。気が付いたら、その人はさっきの男の人とは全然違う人になっていた。わたしはその人に近づいた。

まって、やだ。近づきたくない。

そう思ってるのに体が言うことをきかない。

どんどん近づいていって、そばに座り込む。そして、持っていたナイフを振りかざす。

まって。やだ。やめて。そんなことしたくない。おねがいやめて。たすけて。

体は勝手に動く。そしてその人の胸にナイフを突き立てた。

血が飛び散って、顔にかかる。やだ、気持ち悪い。怖い。もうやめて。

ふと気が付くと、さっき一緒にいた男の人が立っていた。
頭から血がどくどくでていて、ぽたぽた地面に落ちていた。

それをみて、わたしは言いようのない恐怖を感じた。
逃げなきゃ、逃げなきゃ。でもやっぱり体は動かなくて。

その人は私に向かって手を伸ばしてきて。

『―――――――――』




「―――――――――――――――――――――ッッッッ!!!!!!」
声にならない声をあげて跳ね起きた。
息が苦しい。
喉が焼けるみたい。
喉からひゅう、ひゅうと変な音がする。

少しずつ頭が落ち着いてくると、ようやく今自分が七隊のみんなと住んでいる場所の部屋にいることを理解した。
見知った場所にいることに、ほんの少しだけ安堵する。そして何気なく自分の手を見て…血の気が引いた。

その手は…真っ赤だったのだ。

「ッ――――――!?」

思わず悲鳴を上げた。はずなのに喉からは何も出てこない。
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い――――――ッ!!

思わず服で手をぬぐう。手が荒れるぐらいこすってみると、手は何も汚れていなかった。
拭ったはずの服にも汚れはない。
なんだ、夢のせいで幻をみてただけか…。

一息ついた瞬間、ものすごい吐き気が襲ってきた。
思わず洗面台にかけこみ、激しくむせこむ。

気持ち悪くて気持ち悪くて、吐いてしまって楽になりたいのに胃からは何も出てこない。
なにもないのに胃は中身を出そうと伸縮を繰り返す。
胃がせりあがってくるような苦しみに、生理的な涙があふれてきた。

しばらくして、やっと少し落ち着いてきた。
気休めにばしゃばしゃと顔を洗って顔をあげてみる。
「…ひっ…」
そこには鏡に映った自分がいた。
ただそれは、今のわたしよりも幼くて、なにより…血だらけだった。

怖くてその場にへたり込む。
腰が抜けてしまったのか足に力が入らない。

なに、なんなの…いやだ…わたしは何もしてない…!
逃げるように扉へ向かう。
すると目の前に誰かの足が見えた。
七隊の誰かだと思って見上げると、今度は顔が血だらけの人がわたしを見下ろしていた。

―いやああああああ…っ!―

目をつぶって耳をふさいでうずくまる。
これは夢、これは夢だ。

誰か…誰か!七隊の誰かに会いたい…!
すがるように扉を開けて廊下に出る。
廊下には誰の雰囲気もない。

「…ぁ…」

だれか、と声を発したはずなのにやっぱり喉からは何も出てこない。
そこで、ようやくわたしは理解した。

今、自分は声を失っているのだと。

ど、どうしよう…こんなときどうしたら…!
と、とにかく誰かに伝えなきゃ…!
すると、リビングのほうから話し声がした。
向こうにみんながいるとわかると、少しだけ気分が和らいだ。

身体をひきずるように壁を伝ってリビングまで向かう。
もう少しでたどり着くというところで、今度は激しい頭痛が襲ってきた。

まるで頭が割れそうなほどの痛みに一歩も動けなくなった。
頭を押さえて頽れる。
頭の中に、知らない記憶が濁流のように押し寄せてきた。

追いかけてくる誰かの手。
転びそうになりながらつかんだナイフの冷たさ。
ナイフを突き刺している自分の手。
傷口からあふれてくる血。

知らない…!
知らない知らない知らない知らない知らない――――――!!!

こんなの知らない、わたしじゃない…!

全然知らない人の記憶を無理矢理流し込まれているような苦しみと気持ち悪さに気が遠くなる。

もう頭はパンク寸前なのに、容赦なく次から次へと空気を押し込まれているようだ。
だれか、だれかたすけて。
歩くこともできず、ずりずりと這いながら必死でリビングの取っ手を掴む。
すがるように取っ手をひねって扉をあけたところで目の前が真っ暗になった。

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