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side刹那
「ふう...」
燿も斎希も無事帰還した。
怪我もなさそうで良かった。
燿には...悪いことをしたかもしれないけれど。
あとは...。
「そろそろ、戻ってくる頃ですね」
コンピューターの前で待機する。
数分すると、帰還要請が送られてきたので承認。
転送装置が起動した。
「......」
「お疲れ様です」
私の労いの言葉に反応することなく、転送装置からひらりと飛び降りてきたのは、長い銀髪に赤いスカーフ。
言わずとしれた私たちのエース、神流。
「...」
無言で私を見つめてくる神流に、私は微笑みながら話しかけた。
「いつもありがとうございます。あなたには感謝してもしきれませんね」
神流は呆れたようにため息をつく。
「...お前の心にもない礼は結構だ。全く、毎度毎度私に"後始末"を押し付けるな」
「ごめんなさい。でも内容が内容ですから。あなたにしか頼めないのです」
私が神流に頼んでいること、それは。
他のメンバーが受けた任務の補助、そして後始末。
特に...燿の。
「...あいつが鈍いせいで、私が内部からターゲットを外に誘き出す羽目になった」
「そうだったのですか。お手数をおかけしましたね」
神流の能力なら、その程度簡単なことだろうに。
闇の力を応用すれば、軽い幻術程度のことはできる。
きっと彼女はそれを使ってターゲットに近付いたのだろう。
それより、問題は。
「...ターゲットは、どうしました?」
「......近くの病院に放り込んでおいた」
「...そうですか」
神流の視線を感じる。
彼女の言いたいこと。
それは、私自身が一番わかっていた。
「...あの男は、シロだ。...なにも知らない。ただ巻き込まれただけだ」
「...」
言葉はない。
「...あいつは...最近入社した新人経理だ。だから上がってきた予算案や支出歳入をまとめはした。だが...新人にまわってくるものなど所詮表向きのものだ。...横領の事実など想像もしていないだろう。だが、その経理という立場がゆえに罪をすべて被せられかけた...上層部の悪だくみに巻き込まれただけの被害者だ」
「...」
神流の切れ長の目がすっと細められる。
「...お前は私たちに斡旋する前に、徹底してその依頼について調べる。...なら、この程度の事は知っていただろう。...なぜ、雷にやらせた」
もっともな意見だ。
殺す必要などない人の始末依頼を受け、彼女に犯罪の片翼を担わせようとしたのだから。
結果として彼が命を落とすことはなかったが、それでも事実にかわりはない。
「...そうですね。...燿のため、といっておきましょうか」
「...はっ。...よくもまあぬけぬけと」
神流は私の言葉を一蹴して出ていった。
さすがは神流、頭が切れる。
なんだか急に疲れた。
コンピューターの前のリクライニングチェアに座り込む。
...私だって別に彼を殺したかったわけじゃないし、まして燿に犯罪を犯させたいわけでもない。
燿が彼を刺さなかったと聞いたとき、内心では安心したくらいだ。
それでも、燿には...力を得てもらわなければいけないから。
燿だけじゃなく、他の皆にも。
それは、私のエゴかもしれない。
いや、エゴを通り越して醜い暴論の域かも。
例えそうだとしても、私には彼女たちの力が必要だ。
そのためなら、悪役にだってなる。
彼女たちが私を恨むなら、それを甘んじて受け入れよう。
そうあのとき決めた。
心配そうに私の足元に近寄ってきたお付きに私はそっと呟いた。
「悪役も、辛いものですよ」